連日、ニュースや新聞で目にする「カーボンニュートラル」と「脱炭素」の文字。
意味は何となくわかっているけど、内容まではあまり理解できていないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、カーボンニュートラルとは何か、カーボンニュートラルが目指すもの、またカーボンニュートラルの実現に向けた政策から実現困難とされている問題点などをわかりやすく解説していきます。
カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味しています。
これは、二酸化炭素などをはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林や森林管理による「吸収量」を差し引いて、合計をゼロにするということです。
地球温暖化の原因となる炭素を減らす運動、とイメージするとわかりやすいでしょう。
カーボンニュートラルが注目されるようになった2つの背景
パリ協定
2015年のパリ協定で、以下のような世界共通の目標が掲げられました。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
日本もこのパリ協定の締結国となっています。
この目標の実現に向けて、120以上の国と地域がカーボンニュートラルを掲げて政策を打ち出しています。
SDGsの設定
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs。17の目標と具体的な169個のターゲットで構成されており、目標の中には気候変動や環境問題に言及するものもあります。
例えば「持続可能でクリーンなエネルギーの実現」や「気候変動に具体的な対策をとろう」といった目標がこれにあたります。
カーボンニュートラル実現に向けて日本が掲げる目標
カーボンニュートラル、すなわち脱炭素を実現するためには、脱炭素へゴールするための過程が重要です。
日本では以下のような目標を掲げています。
- 2013年度と比べ、温室効果ガスの排出量を2030年度までに26%削減
- 再生可能エネルギー、循環可能な資源を最大限利用し、低炭素なエネルギーへ転換
- 徒歩や自転車の活用、輸送手段効率化、公共交通の整備
また、これに加えて、次にあげるような取り組み内容を実施していくことが決定されています。
- 再エネポテンシャルの最大活用による追加導入
- 住宅・建築物の省エネ導入及び蓄電池等として活用可能なEV/PHEV/FCV活用
- 再生可能エネルギー熱や未利用熱、カーボンニュートラル燃料の利用
- 地域特性に応じたデジタル技術も活用した脱炭素化の取組
- 資源循環の高度化(循環経済への移行)
- CO2排出実質ゼロの電気・熱・燃料の融通
- 地域の自然資源等を生かした吸収源対策等
これを全国100か所以上の地域で創出することで「脱炭素先行地域」をつくり、その後重点対策を全国的に展開していくことになっています。
カーボンニュートラル実現に向けた課題とは
実は、脱炭素、カーボンニュートラルを実現するには課題が多く残っています。
ガソリン車販売を無くすことが困難
例えば、EUでは2030年代にはガソリン車の販売をなくすことを目標としていますが、これの実現はかなり難しいといえます。
仮に乗用車400万台を電気自動車にすると、冬場は電気が10~15%ほど足りなくなる可能性があります。その量は、原発なら10基、火力なら20基分とも言われており、不足する電力は計り知れません。
また、ご存じの通り、日本の道は軽自動車でなければすれ違えないような細く小さな道が多く存在しています。
軽自動車の販売がなくなると、こうした地域に住んでいる方の生活が立ちいかなくなるでしょう。
電気自動車の普及は、今後も一層進むことが予想されますが、カーボンニュートラルという文字の元、無理に進めると実際に生活をしている人々にとって不利益が生じます。
代わりのエネルギーがない
代わりになる、クリーンで安定したエネルギーが確保できないという問題もあります。
現在の生活を維持するためには、再生可能エネルギーだけではエネルギー量が不足します。
日本のエネルギー自給率は11.8%であり、先進国の中でも極めて低くなっています。また火力発電によるエネルギー供給が8割を占めており、火力発電への依存度が高いことも特徴の1つです。
エネルギーの安定供給 | 経済性 | 環境保全 | メリット | デメリット | |
水力 | △
建設地が少ない |
〇 | 〇 | ― | ― |
再生可能エネルギー | ×
発電が不安定 |
△ | 〇 | ― | 送電・配電線の容量不足 |
火力 | △
資源の安定調達に課題 |
△ | × | 発電量の調整に優れている | ― |
原子力 | 〇 | 〇 | △ | ― | 放射性廃棄物問題 |
水力発電や火力発電、再生可能エネルギーは建設地が少ない、発電が不安定といった問題があり、安定性に不安があります。そのため、発電コストが低く昼夜を問わずに稼働できる水力と電子力、火力発電が24時間一定の電気を作り出し、晴れた日には太陽光などの再生可能エネルギーで補うといった方法が取られていますが、再生可能エネルギーの発電量が増えるほど、それをバックアップするための火力発電が必要になってしまいます。
グリーンバブル
ドイツのフォルクスワーゲンや、日本の武田薬品などがインドネシア発のクレジットを購入しています。中部カリマンタン州の森林を守る「カティンガンプロジェクト」は、インドネシアの不動産開発会社が中心となって、森林開発権の停止や乱伐を防ぐ活動をしています。
放置すれば伐採が進む可能性のある森林を保護することで、植林と同様に二酸化炭素削減効果があるとみなされ、クレジットが発行できます。この国際ルールに則って、同企業は60年に渡って二酸化炭素が平均745万トン減ると算出し、240憶円にも及ぶクレジットを発行しています。
しかし、その内情を見ると本当に二酸化炭素が削減できているかは解明されていません。
カーボンニュートラルの旗を掲げて、関係のない事業を展開している企業は増えていると予想されます。
カーボンニュートラルの実現に向けて
カーボンニュートラルの実現に向けて、今世界全体が取り組んでいます。しかし、無理に進めては実際に生活している国民に不利益が生じることになる危険性も秘めています。
やみくもに「脱炭素」「〇年までに×%削減」と声高に叫んでも、カーボンニュートラルを実現することは不可能です。
そのためには、再生可能エネルギーの安定した供給、ガソリン車にかわる車の開発といった、生活に根差した課題を解決する必要があります。